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神戸地方裁判所 昭和55年(ワ)1310号 判決

原告

葵新建設株式会社

右代表者代表取締役

出口隆

右訴訟代理人弁護士

松井幹男

被告

川口海運有限会社

右代表者代表取締役

川口實

被告

長船武

被告

株式会社園池商店

右代表者代表取締役

園田武彦

右被告三名訴訟代理人弁護士

荒木重信

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  原告(請求の趣旨)

1  被告川口海運有限会社は、原告に対し、金六六六万四〇〇〇円とこれに対する昭和五五年一一月二九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告三名は、各自、原告に対し、金一億二六八〇万円と内金九五二万円に対する昭和五五年一一月二九日から、内金六五二八万円に対する昭和六〇年六月六日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  仮執行宣言

二  被告ら(請求の趣旨に対する答弁)

主文同旨の判決

第二  当事者の主張

一  原告(請求原因)

1  原告は、内航海運業、砂・砂利採取業等を営む会社であり、被告川口海運有限会社(以下「被告川口海運」という。)は、内航海運業、砂利採取等を営む会社、被告長船武(以下「被告長船」という。)は、内航運送業を営むもの、被告株式会社園池商店(以下「被告園池商店」という。)は、鉄鋼材・塗料セメント等の販売、砂・砂利の製造販売等を営む会社である。

2(一)  原告は、神戸市中央区に本店をおくものであるが、長崎市五島町に支店を設け、長崎県壱岐郡郷ノ浦町初瀬地先、同郡石田町印通寺地先、同県北松浦郡田平町下寺免平外目地先における海砂の採取について、砂利採取法一六条の規定により、長崎県知事の認可を受け、右各海域における海砂の採取を行っている。

(二)  原告は、その所有にかかる第二あをい丸と被告所有の第六あをい丸の二船を使用し、右海砂の採取を行っていた。

3  原告の代表者出口隆は、従来の砂利採取船とは発想の異なる荷役船(動力機関を有し自走・操舵能力を有する後推動力船と荷役操業・貨物搭載能力を有する貨物搭載船を一体化した荷役船)を発明し、右発明につき、昭和五二年一二月一五日、原告名義をもって特許出願し(特許庁昭和五二年第一五一一三三号)、特許出願公開を受けたが(特許庁昭和五四年第八三二九〇号)、その後、実用新案に出願を変更して、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」という。)を有する。

登録番号 第一四六九〇四五号

名称 押船曳航三辺嵌合固定型荷役船

出願日 昭和五二年一二月一五日(特許出願日援用)

出願公開日 昭和五六年一二月一九日(特許庁昭和五六年第一七二四九五号)

公告日 昭和五七年五月一二日(同昭和五七年第二一八三七号)

登録日 昭和五八年一月一四日

実用新案の技術的範囲

① 平坦な舳先を有し、自走・操舵能力を有する後推動力船と、貨物搭載能力を有する貨物搭載船とからなり、

② 前記後推動力船の全長に亘り両舷側及び平坦な舳先部の三辺にそれぞれ漸次先細となる連結張出部を設け、

③ 前記貨物搭載船にその艫部を双胴化する渠口を設け、該双胴部内舷側と中壁側との三辺に前記各連結張出部がそれぞれ嵌合する漸次先細となる嵌合溝部を設け、

④ 前記両部に互に連結すべき連結固定部材を設け、

⑤ 前記渠口内に前記後推動力船の三辺全体を前記両船の船尾がほぼ面一となるように嵌合固定することにより、両船を一体化するようにしたこと

を特徴とする押船曳航式三辺嵌合固定型荷役船

4  原告は、昭和五三年にその所有船として本件実用新案権に基づく技術・構造を有する第一あをい丸を建造したが、これを知った被告川口海運が同型船の建造許可を懇請してきたので、建造後は原告が専属的に使用することを条件に建造を許可し、同年同型船を建造し船名を第八あをい丸と命名し、同船につき、原告(受託者)・被告(委託者)間に運送委託契約が締結され、運航を開始したが、昭和五四年一月一八日、悪天候に遭遇して両船とも沈没した。

5(一)  昭和五四年、原告は、第二あをい丸を、被告は、第六あをい丸《汽船第六あをい丸という押船(プッシャー・ボート)と建設機械である台船(バージ)第六あをい丸とが一体化した荷役船。》をそれぞれ建造した。

(二)  昭和五四年八月一日、第六あをい丸について、原告(運航受託者)は被告川口海運(運航委託者)との間で、次のとおり、運航委託契約(以下「本件運航委託契約」という。)を締結した。

(1) 委託開始日 昭和五四年八月二四日

(2) 委託期間 委託開始日から五年間

(3) 運航委託手数料 総運賃収入の五パーセント

(4) 本契約期間満了一か月前までに双方のいずれか一方から相手方に対し解約の申出がない限り、契約期間はさらに一年間延長されるものとし、以後もこれに準じて自動延長する。

(5) 被告川口海運の受け取る運賃は、海砂一立方メートルにつき一二〇〇円とする。

(6) 被告川口海運が本契約期間中第六あをい丸を他に売却譲渡する場合には、あらかじめ、特許権その他の関係について、原告の承認を得るものとする。

(三)  同日、原告・被告川口海運との間に、覚書により、次のとおり、合意がなされた。

(1) 第六あをい丸の稼働による総運賃収入が一か月金一三〇〇万円をこえる場合は、被告川口海運は原告に特許使用料として金一〇〇万円を支払う。

(2) 荷役船(バージ)の使用料として、被告川口海運は原告に対し、一か月金二〇万円を支払う。

(3) 本覚書の有効期間は五年間とする。

(四)  右契約・合意に基づき、原告は、昭和五四年八月二四日第六あをい丸の引渡を受け、その配船計画に従って第六あをい丸の運航を開始した。

6(一)(1) 被告川口海運は、昭和五五年七月二五日、本件運航委託契約に違反し、原告の配船計画を無視して、第六あをい丸の運航を停止した。

(2) 右被告川口海運の債務不履行ないしは不法行為により、原告は昭和五五年七月二五日から同年九月一一日までの四九日間、第六あをい丸を運航すれば得られたであろう得べかりし利益の損害を被った。

(3) 第六あをい丸の稼働実績は、月平均一二回航海して稼働し、一航海につき一〇〇〇立方メートルの海砂を運送し、運送賃は一立方メートルにつき一二〇〇円であったから、一か月に第六あをい丸が受ける運送賃収入総額は、平均金一四四〇万円であった。従って、原告は、第六あをい丸が配船に応じた場合は、本件運航委託契約に基づき、一か月平均金七二万円(右一四四〇万円の五パーセント)の運航手数料を得られたはずである。また、第六あをい丸は、一か月あたり一万二〇〇〇立方メートル(一航海一〇〇〇立方メートルの一二航海分)の海砂を運送するところ、海砂販売代金から運賃相当額を差し引いた純粋な海砂代金は、一立方メートルあたり三五〇円であるが、内金七〇円は県に納付するので、結局、一立方メートルあたり二八〇円、一か月金三三六万円(二八〇円×一二〇〇〇立方メートル)が砂販売による原告の得べかりし利益額であった。以上、右期間の原告の得べかりし利益の損害は、次の計算式のとおり、一か月あたり運航手数料七二万円、砂販売利益三三六万円の合計金四〇八万円の四九日分金六六六万四〇〇〇円となる。

4080000×49÷30=6664000

(二)(1) 原告は、昭和五五年八月下旬に、被告三名に対し、第六あをい丸の建造の経緯、原告と被告川口海運との間の運航委託契約の趣旨を通知して、中止勧告・警告したにもかかわらず、被告川口海運(委託者)は、同月二五日、被告長船(受託者)との間で、第六あをい丸の運航委託契約を締結し、ついで、同年九月八日、被告長船・同園池商店(持分各二分の一)に対し、第六あをい丸を売却し、押船(プッシャー・ボート)につき、神戸地方法務局三原出張所昭和五五年九月一一日受付第三四号をもって、台船(バージ)につき、同法務局同出張所同日受付第五九号をもってそれぞれその旨の所有権移転登記手続をなし、第六あをい丸をあわぢ丸と船名変更したうえ、これに被告川口海運の乗組員を乗り組ませたまま、被告園池商店が運航している。

(2) 被告園池商店は、傘下に砂利採取・販売をなす子会社をもち、自らも砂利販売を業とする長崎市における有力な会社であるところ、原告所有の第二あをい丸、同型船である第六あをい丸が他の在来砂利採取船に比べて格段に優秀であることに注目し、第六あをい丸を自己の支配下におくことを画策していた。そして、同社社員らは第六あをい丸船長などに対し、度々被告園池商店の支配下に移るよう勧め、昭和五五年春ころには、おおよそ被告園池商店の支配下に移る話合は成立していたものと推定される。

被告長船同園池商店は、本件運航委託契約が存在し、原告が第六あをい丸を支配下において運航していたこと及び同船が本件実用新案権に基づき建造された船であること並びに第六あをい丸を原告の支配下から離脱させるときは、原告に運航委託手数料その他の損害を与えることを十分知りながら、被告川口海運を含め被告三名は、共謀のうえ、原告の警告を無視して、右(1)記載のとおり、原告による第六あをい丸運航を不能ならしめた。

(3) 右のとおり、被告三名は、共同不法行為により、第六あをい丸の所有権移転登記を移転し、同船を違法に原告の支配下から離脱させ、原告に対し、前記運航手数料・砂販売利益相当額の得べかりし利益の損害を被らせたものというべきである。そして、昭和五五年九月一二日から同年一一月二〇日までの七〇日間、及び昭和五七年七月一日から昭和五八年一〇月三一日までの一年と四か月間の右損害は、一か月あたり金四〇八万円(運航手数料七二万円、砂販売利益三三六万円の合計金。前記6(一)(3)記載のとおり)であるから、被告三名は、各自、原告に対し、次の計算式のとおり、前者については、金九五二万円、後者については、金六五二八万円の損害を賠償する責任がある。

4080000×70÷30=9520000

4080000×16=65280000

7  本件実用新案権に基づく請求について

(一) 前記のとおり、原告は本件実用新案権の権利者であるが、被告らは、いずれも第六あをい丸は右実用新案権を実施して建造されたものであることを知りながら、同船を運航することにより本件実用新案権を実施している。原告は昭和五五年八月二三日到達の書面で被告川口海運に対し、昭和五五年八月三一日到達の書面で被告園池商店に対し、昭和五五年九月一日到達の書面で被告長船に対し、それぞれ警告した。そして、前記のとおり、本件実用新案権は昭和五六年一二月一九日出願公開があり、昭和五七年五月一二日に出願公告があったので、原告は被告らに対し、実用新案法一三条の三第一項の規定に基づき、出願公開日である昭和五六年一二月一九日から出願公告日である昭和五七年五月一二日までの間、「その実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額の補償金」の支払を請求することができる。

右補償金の額は、前記5(三)(1)記載の約定に鑑みると、一か月金一〇〇万円を下回ることはないものというべきであるから、右補償金の合計額は、次の計算式のとおり、金四七三万四二四六円となる。

1000000×12×144÷365=4734246

(二) 原告は出願公告日から本件実用新案権の実施をする権利を専有したところ(実用新案法一二条一項)、被告らは、前記のとおり、右期日以降も本件実用新案権にかかる権利を継続して実施しているから、右被告らの行為は、原告の本件実用新案権を違法に侵害したものとして、不法行為を構成する。よって、原告は被告らに対し、昭和五七年五月一二日から昭和六一年四月一九日まで、右不法行為に基づく損害金として、前同様一か月金一〇〇万円の割合で計算した合計金四七二六万五七五四円の支払を求める。

(三) 仮に、右(一)、(二)の主張が認められないとしても、被告らは、本件実用新案権の出願公開のあった後、右考案又は権利を実施することにより不当な利得を受け、そのために、原告はその考案又は権利の実施により通常うくべき金銭の額に相当する額の損害を被っている。よって、原告は被告らに対し、不当利得返還請求権に基づき、右出願公開日の翌日である昭和五六年一二月二〇日から昭和六一年四月一九日まで、前同様一か月金一〇〇万円の割合で計算した合計金五二〇〇万円の支払を求める。

8  結論

よって、原告は被告川口海運に対し、債務不履行ないしは不法行為に基づき、金六六六万四〇〇〇円とこれに対する履行期後である昭和五五年一一月二九日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、被告ら各自に対し、共同不法行為に基づくうべかりし営業利益金相当損害金として金七四八〇万円及び本件実用新案権侵害に基づく損害金等として金五二〇〇万円の合計金一億二六八〇万円並びに内金九五二万円に対する履行期後である昭和五五年一一月二九日から、内金六五二八万円に対する履行期後である昭和六〇年六月六日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告ら(本案前の主張)

本件運航委託契約書の裏面には、この契約に関する紛争については神戸の社団法人日本海運集会所の仲裁判断をもって最終のものとする旨の特約があるところ、原告の本訴請求は、右特約に違反してなされたものであるから却下を免れない。

三  原告(被告らの本案前の主張に対する認否・反論)

本件運航委託契約書に被告ら主張の特約条項の記載のあることは認めるが、その主張は争う。被告長船同園池は右契約の当事者ではないから、右両者について仲裁条項の適用のないことは明らかである。海事に関する契約には、日本海運集会所所定の契約書式を使用することが多いが、契約当事者は仲裁条項は全く知らずに右書式を利用しているのであるから、右仲裁条項は印刷文言というべく被告らの主張は理由がない。

四  被告ら(請求原因に対する認否)

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2(一)の事実は不知、同2(二)の事実は認める。

3  同3の事実中、原告主張の経過で原告が本件実用新案権を有することは認める。その主張の後推動力船と貨物搭載船を一体化した荷役船は以前からあったものであって、原告の発明にかかるものではない。

4  同4の事実中、被告川口海運が昭和五三年に第八あをい丸を建造し、その運航を原告に委託したこと、昭和五四年一月一八日同船が沈没したことは認めるが、その余の事実は否認する。

5  同5(一)の事実は認める。同5(二)の事実中、被告川口海運が原告主張の運航委託契約書に調印した事実、同5(三)の事実中、被告川口海運が原告主張の覚書に調印したことは認めるがその主張はいずれも争う。右契約書及び覚書は原告において税務署に提出する必要があるとの由であったので、被告川口海運において協力する趣旨で調印したものであるから、右契約書の調印により原告主張の内容の契約を締結したものではない。本件運航委託契約は期間の定めのないものであった。

6  同6(一)の事実中、昭和五五年七月二五日、被告川口海運が第六あをい丸の運航を停止したことは認め、その余の事実及びその主張は争う。

同6(二)の事実中、被告川口海運が被告長船との間で運航委託契約を締結したこと、昭和五五年九月八日被告川口海運が被告長船同園池商店に対し第六あをい丸の所有権(共有持分二分の一宛)を譲渡し、原告主張の所有権移転登記手続をしたことは認めるが、その余の事実は否認し、その主張は争う。

原告の被告長船・同園池商店に対する請求は、原告の被告川口海運に対する本件運航委託契約上の債権侵害に基づく不法行為を根拠とするものと解されるところ、債権には排他性がなく、債務の履行は一に被告川口海運の自由意思にかかりその余の被告らの意思とはかかわりないところであるから、被告長船・同園池商店らにはなんら違法性はない。同被告らには債権侵害による不法行為は成立しない。

7  同7の主張は争う。第六あをい丸は第八あをい丸と同一構造をもって建造されたものではなく、被告川口海運において本件実用新案権の技術的範囲を越えた数々の考案を用いて建造されたものであるから、その船体構造は原告のそれとは各所において構造を異にしている。第六あをい丸の船体構造は本件実用新案権の技術的範囲に属するものではない。

仮に、第六あをい丸の船体構造が本件実用新案権の技術的範囲に属するとしても、補償金等の額が一か月あたり金一〇〇万円を下回ることはない旨の原告の主張は不当である。昭和五四年八月から昭和五五年八月までの一三か月間に原告が現実に取得した特許料は合計金三五七万六一〇〇円であることは原告の自認するところである(甲第一二号証)から、右現実の実施権料(一か月あたり二七万五〇八四円)が補償金等算出の基礎金額とされねばならない。

また、右補償金を請求するには、実用新案法一三条の三第一項所定の「警告」がなされねばならないところ、右「警告」は実用新案の範囲に記載された発明の内容等を示し、相手方の商品の製造・販売が、具体的に自己の発明の実施に該当する旨記載しなければならないものと解すべきである。ところが、原告主張の警告書(甲第一六ないし第一八号証の各一)には単に特許出願をなし、出願公開を受け、遠からず出願公告が期待される技術・構造を持った船である旨の記載があるのみであるから、原告主張の警告は右実用新案法所定の警告にはあたらない。

五  被告ら(抗弁)

1  本件運航委託契約の解除

(一) 合意解除

昭和五五年八月二〇日ころ、被告川口海運の代表者川口実は原告代表者に対し、同被告が経済的に困窮の極に達していたため、融資依頼及び収入の最低保証を求め、「もう融資をしてくれなかったら船を売るかどこかに移るしかない。」と申し向けたところ、原告代表者は「勝手にせい。」と返答した。右経過により本件運航委託契約は合意解除されたものというべきである。従って、本件運航委託契約違反を理由とする原告の主張は理由がない。

(二) 仮に、右主張が認められないとしても、本件運航委託契約は民法六五六条にいう準委任契約であると解すべきであり、従って、民法の委任に関する規定が準用され、各当事者においていつでもこれを一方的に解除できるものである(民法六五一条一項)ところ、被告川口海運の代表者は原告代表者に対し、昭和五五年八月二〇日ころ、口頭で本件運航委託契約を解除する旨意思表示した。また、船舶の運航委託契約の取引においては、右一方的意思表示による解除をなしうる商慣習も存在する。そして、次項(三)記載のとおり、原告には本件運航委託契約上の善管注意義務違反があったから、右解除は民法六五一条二項但書の「やむことを得ざる事由」による解除というべきである。

(三) 仮に、右主張が認められないとしても、本件においては、継続的契約関係である本件運航委託契約存続の前提たる信頼関係が破壊されていたから、右信頼関係破壊を理由とする無催告契約解除が認められるべきであり、そうでないとしても、このような場合原告が被告川口海運の解除の申込みを拒絶するのは権利乱用として許されるべきではない。

運航委託契約は受託者を信頼して同人に委託者の船舶の運航の一切を任せる契約であるところ、ことに本件運航委託契約は、被告川口海運の唯一の所有船舶である第六あをい丸を運航委託していたのであるから、同被告の生死は受託者の運航の采配一つにかかっているという意味で、特に強度の信頼関係を基礎とする契約であった。従って、受託者たる原告には善良な管理者の注意をもって第六あをい丸を被告川口海運に有利に運航すべき注意義務があり、被告川口海運が倒産の危機に瀕しないよう、誠実に第六あをい丸を配船運航すべき契約上の義務があった。しかしながら、原告は、昭和五四年八月五日第六あをい丸が壱岐に回航されて運航可能な状態にあったにも拘わらず同年一〇月末日までほとんど運航させなかったし、同年一一月からも被告川口海運の経理を賄うに足りる水揚げの確保をせず、さらに、昭和五五年四月ころからは運航回数を月々減少させ、その水揚げも同様に減少させた。また、原告は、後記4(一)記載のとおり、被告川口海運から第八あをい丸の建造名義料名下に金三二〇〇万円を騙取し、あるいはこれを不当利得し、同4(二)記載のとおり、第六あをい丸につき特許使用料名下に金三五七万六一〇〇円を不当利得したほか、第六あをい丸に許可区域外での違法な砂利採取を強要し、第二あをい丸に比べ第六あをい丸に不利な配船をした。そのため、被告川口海運にあっては、昭和五五年七月末日における累積赤字の総額は三七五五万三〇〇〇円に達し、その運営が極度に苦しくなったので、再三にわたり、口頭又は文書により原告に対し収入の最低保証の申出をし、あるいは融資の依頼をしたが、原告は全く応じないばかりか、被告川口海運を第六あをい丸ごと乗っ取るがごとき気配を示した。このような場合、被告川口海運が原告と手を切って会社の生き残りを図るのは当然であり、他方、原告が契約関係の維持を要求するのは権利の乱用であり、取引上の信義則にも反する。従って、原告には本件運航委託契約の基礎たる信頼関係破壊の違法があったものというべく、このような場合、被告川口海運には解約告知権があるものというべく、本件運航委託契約の解除は右解約告知権の行使として有効というべきである。仮にそうでないとしても、このような場合原告が被告川口海運の解約の申込みを拒絶するのは権利の乱用として許されるべきではないから、解約の合意が成立したものというべきである。

2  本件実用新案権の使用許諾

仮に、第六あをい丸の船体構造が本件実用新案権の技術的範囲に抵触するとしても、次に記載するとおり、被告川口海運は原告に対し、金三二〇〇万円の支払をなすことによりその使用許諾をえているから、同被告から第六あをい丸を譲り受けた被告長船・同園池商店も含め、被告らは第六あをい丸を使用・収益しうるものというべきである。

使用許諾の経緯は次のとおりである。

原告は昭和五三年九月ころ、動力機関を有し自走・操舵能力を有する後推動力船と荷役操業・貨物搭載能力を有する貨物搭載船を一体化した荷役船を建造していたが、被告川口海運は原告との間で、船名を第八あをい丸とし、建造後は原告にその運航を委託する、運航委託手数料は一か月の総収益の五パーセントとし、特許船の特許使用料として一か月あたり水揚げ金額が一二〇〇万円以上の場合に限り、その限度額を一〇〇万円としてこれを支払う、被告川口海運は原告に対し、第八あをい丸の「建造名義料等」として金三二〇〇万円を支払うとの約定で同型船である第八あをい丸の建造をし、被告川口海運は原告に対し、昭和五三年一〇月二日、同年一二月一八日及び昭和五四年五月一六日に各一〇〇〇万円宛、外に別途二〇〇万円の合計三二〇〇万円を支払い、同船を原告に運航委託した。右建造名義料交付の趣旨は必ずしも明らかではないが、少なくとも、原告主張の考案に基づく船舶の建造に対する対価であった。建造された船舶は第八あをい丸であったが、同船の沈没後、同一考案に基づく第六あをい丸の建造については、右建造名義料の支払を援用した。以上のとおり、被告川口海運は、第六あをい丸の建造・使用の許諾並びに原告主張の自家用船舶建造の権利の対価として右三二〇〇万円を支払ったのである。

3  消滅時効

(一) 原告の昭和五七年七月一日から昭和五八年一〇月三一日までの第六あをい丸の運航によるうべかりし利益の損害賠償請求権について、原告が請求の拡張により右請求をした昭和六〇年六月五日には、不法行為時である昭和五五年八月末日からすでに三年を経過していた。被告らは本訴において右時効を援用する。

(二) 原告の昭和五七年五月一二日から昭和五八年一月一四日までの損害賠償請求は昭和六一年七月一一日請求の拡張によりなされたものであるところ、右同日の三年以前にあたる昭和五七年五月一二日から昭和五八年七月一一日までの損害賠償請求権はすでに三年の時効にかかっている。被告らは本訴において右時効を援用する。

(三) 実用新案法一三条の三第四項によれば、請求原因7(一)の補償金請求権の消滅時効については民法七二四条の規定が準用され、その起算点は「当該実用新案登録出願の出願公告の日」とされているところ、本件実用新案権の出願公告の日は昭和五七年五月一二日であるから、原告が補償金請求をした昭和六〇年一一月二六日にはすでに右出願公告の日から三年を経過していた。被告らは本訴において右時効を援用する。

4  相殺

(一) 前記のとおり、被告川口海運は原告に対し、第八あをい丸の建造名義料として金三二〇〇万円を支払った。ところで、右「建造名義料等」として支払う三二〇〇万円について、原告は、第八あをい丸について、すでに日本内航海運組合総連合会及び神戸海運局から自家用船としてその建造の許可をえている旨説明していたが、右建造許可はなされていなかった。

原告は、昭和四八年七月一六日付自家用船舶使用届出受理証をもって右建造許可のなされていたことの根拠と主張するが、右届出受理証によると、建造船は、愛媛県喜多郡長浜町沖合から砂利を採取し、長浜港又は大分県中津港に陸揚げする計画で、遅くとも昭和四八年一〇月初旬には完成する旨の条件でその届出が受理されたものであるところ、第八あをい丸はその約五年後に建造されたものであるうえ、長崎県壱岐郡長島沖合から砂利を採取し、近隣港へ陸揚げする運航計画であったから、右届出の諸条件とは全く異なる原告主張の届出は第八あをい丸につき原告に建造資格のあったことを示す資料足りえない。そうでないとしても、本件においては、長崎県下の海域において適法に運航しうるための届出事項変更届出がなされていないから、原告は当時第八あをい丸を原告の自家用船として有効に長崎県下の海域で運航させる権利を有していたものとは言えない。

従って、原告は被告川口海運から右金三二〇〇万円を騙取したものであり、右原告の行為は不法行為に該当し、あるいは右三二〇〇万円を原告において不当利得したものというべきである。

被告川口海運は、昭和六〇年六月一二日本件口頭弁論期日において、右三二〇〇万円の返還請求権をもって原告の本件請求債権と対当額で相殺する旨の意思表示をした。

(二) 前記のとおり、被告川口海運は原告に対し、第六あをい丸の特許使用料として合計金三五七万六一〇〇円の支払をしたところ、右支払の対象である特許権は成立せず、かつ第六あをい丸の船体構造は本件実用新案権に抵触するものではなかったから、原告は右金員を不当利得したものというべきである。

被告川口海運は、昭和六一年七月一七日本件口頭弁論期日において、右三五七万六一〇〇円の返還請求権をもって原告の本訴請求債権と対当額で相殺する旨の意思表示をした。

六  原告(抗弁に対する認否)

1  抗弁1(一)の事実は否認する。

同1(二)の事実中、被告川口海運が原告に対し、昭和五五年八月中旬ころ、本件運航委託契約を解除したい旨の意思表示をしたことは認めるが、その余の事実は否認し、その主張は争う。被告川口海運が原告の支配下から離脱したのは同被告の経済的窮状を原因とするものではなく、被告園池商店が優秀船である第六あをい丸を自己の支配下に奪取する意図のもとに被告川口海運と共謀またはこれをほう助してなした不法なものである。その他、被告らの主張する信頼関係破壊の事実も否認する。

同1(三)の事実は否認し、その主張は争う。本件運航委託契約の法的性質は定期傭船契約類似の非典型契約であると解すべきである。運航委託契約も定期傭船契約もともに委託者(傭船者)が海上企業者として船舶の配船一切を掌り、船舶所有者は船長以下の乗組員付で船舶を受託者に提供し、狭義の運航すなわち海技上の労務提供をなすものであり、右両契約は、前者が運航実績に応じて船舶所有者の受け取る運送料に変動があるのに対し、後者は定額の傭船料を受け取る点を除けば、基本的に異なる点はない。被告らは本件運航委託契約は民法上の準委任契約である旨主張するが、運航支配権が受託者にある本件契約についての右解釈は委託の文言にとらわれた誤った解釈であり、右解釈によると、定期傭船者が船舶をさらに定期傭船にだせることを説明できない。定期傭船契約は期間満了による終了か当事者の契約不履行がなければ解除することはできない。船舶の運航委託という契約の性質上そもそも運航委託契約は継続的契約であるが、本件運航委託契約は、原告主張の特殊一体化荷役船の被告川口海運による建造・運航を、竣工後は原告に専属的に運航委託する旨の条件のもとで許可したものであって、期間を五年間とし、さらに期間満了の際にはこれを更新することを予定した長期にわたる継続的な契約であったから、委託者の一方的意思表示により解除できるものでないことは明らかである。

2  抗弁2の事実中、原告が被告川口海運から第八あをい丸の建造名義料として金三二〇〇万円を受領したことは認めるが、その余の事実は否認し、その主張は争う。

第八あをい丸(第六あをい丸と同様ボートとバージが一体化した荷役船)の建造に際し、バージについては、原告が昭和四八年に神戸海運局長から建造承認を受けていた自家用船の内航資格をもって原告名義で建造したところ、右金三二〇〇万円はその建造名義料として受領したものである。自家用船の資格は当該船舶が滅失すれば消滅するから、第八あをい丸の沈没により右自家用船の資格は滅失した。後記のとおり、バージ第六あをい丸は新たな営業船資格をもって建造・運航したものであるから、右三二〇〇万円と同船の建造とは関係はなく、まして右金員の受領により本件実用新案権の使用を許諾したとする被告らの主張は全く理由がない。

3  抗弁3の主張はすべて争う。

4  抗弁4(一)の事実中、原告が被告川口海運から第八あをい丸の建造名義料として金三二〇〇万円を受領したことは認めるが、その余の事実は否認する。

内航運送に使用する船舶(以下「内航船」という。)は、内航海運業法(以下「業法」という。)二条により、船種別の船腹量が策定され、内航海運組合法の規定により日本内航海運組合総連合会(以下「総連合会」という。)が内航船の船腹量を所掌することとなっている。従って、第八あをい丸の建造についても、ボート、バージともに総連合会の建造承認(通例内航資格と呼ばれる。以下「内航資格」という。)をえなければ建造し、あるいは内航運送事業に使用することができなかった。自家用船舶とは業法二五条の二により、「内航海運事業の用に供する船舶以外の船舶」と定義されているところ、自家用船舶であっても、これを内航運送の用に供するものはあらかじめ運輸大臣に届出しなければならず、その場合、①当該船舶は自己所有船であること、②当該船舶を直接に自己運航するものであること、③当該船舶による運送が他人の需要に応ずるものでないことの三要件が必要とされ、右自家用船の建造、運航の資格も同じく内航資格として取り扱われている。昭和五三年一二月に、内航資格を持たない被告川口海運が第八あをい丸を建造するに際し、ボートについては、同被告が内航資格を総連合会に申請しその承認のえられることを前提に同被告名義で建造し、バージについては、原告が昭和四八年七月一〇日付をもって神戸海運局長に対し自家用船舶使用届出をし、同月一六日付で届出受理証の交付を受けていた原告の自家用船の内航資格を使用して、原告名義で、実質的には同被告所有の船舶として建造することとした。そして、右原告の内航資格(自家用船舶建造等の権利)の譲渡ないし名義貸の対価として前記三二〇〇万円を原告は受領したのである。ところで、右届出は、建造船の使用海域を愛媛県長浜町沖・採取、大分県中津港・陸揚としてなされていた。右使用海域の変更については、業法二五条の二第一項によって届出事項の変更届出を行えば足り、元の届出事項は固定的なものではなく、元の届出は変更届出によって有効に存続しうるところ、原告は大分県下での砂利採取を前提に総連合会に意見書交付申請をしたが、従来の取扱と異なり砂利採取の許可が必要とされ、大分県下の砂利採取業者の反対により同県知事の許可がでなかったため、同県下での操業を断念し、長崎県下での操業を計画して、昭和五三年一一月二〇日、長崎県田平町漁業組合の同意をえ、ついで届出事項の変更手続を準備中に第八あをい丸が沈没したものである。

抗弁4(二)の事実は否認し、その主張は争う。

第三  証拠〈省略〉

理由

一被告らの本案前の主張について

被告らは、昭和六一年七月一七日の本件第二七回口頭弁論期日において、本案前の抗弁として仲裁契約の存在を主張したが、右抗弁は本件運航委託契約書の裏面にその旨の不動文字による条項があるとの主張であり、同契約書にその旨の文言のあることは当事者間に争いがないところ、右運航委託契約書は甲第三号証として昭和五六年四月一五日の本件第二回口頭弁論期日において原告から提出され、昭和五六年六月一日の本件第三回口頭弁論期日において被告らが「その成立は認める。ただし、日付部分の成立は否認する。」旨書証の成立の認否をしたこと、右時点において被告らは右契約書に仲裁契約文言のあることを知っていたかあるいは容易に知りえたものであること、本件第二七回口頭弁論期日までの間、被告らは本案につき種々の抗弁を主張し、実体審理に入ることに全く異議を述べず、当事者双方とも本案につき主張・立証を続けていたこと、右甲第三号証によると、右契約書は社団法人日本海運集会所書式制定委員会が昭和四九年四月一一日制定した書式を利用して作成されたものであると認められること等の本件訴訟の審理経過その他の事実に鑑みると、右甲第三号証は被告ら主張の仲裁契約の存在を認めるに足りる資料となるものではなく、(他に右事実を認めるに足りる証拠はない。)本件運航委託契約書の仲裁文言はいわゆる印刷文言・例文であって、右文言があるからといって当事者間に拘束力のある契約内容として仲裁の合意がなされたものと認めるには足りないものと認めるのが相当である。従って、被告らの右本案前の主張は理由がない。

二請求原因1、同2(二)の事実、同3の事実中、原告主張の経過で原告が本件実用新案権を有すること、同4の事実中、被告川口海運が昭和五三年に第八あをい丸を建造し、その運航を原告に委託したこと、昭和五四年一月一八日同船が沈没したこと、同5(一)の事実、同5(二)の事実中、被告川口海運が原告主張の運航委託契約書に調印した事実、同5(三)の事実中、被告川口海運が原告主張の覚書に調印した事実、同6(一)の事実中、昭和五五年七月二五日被告川口海運が第六あをい丸の運航を停止した事実、同6(二)の事実中、被告川口海運が被告長船との間で運航委託契約を締結したこと、被告川口海運が被告長船同園池商店に対し第六あをい丸の所有権(共有持分各二分の一宛)を譲渡し、原告主張の所有権移転登記手続をしたことは当事者間に争いがなく、〈証拠〉を総合すれば、次の事実が認められる。

1  原告は、昭和四七年九月一日設立された清水海運建設有限会社を昭和四九年三月七日組織変更した海上運送業、内航海運業、砂利採取業を営む株式会社であるが、昭和五二年末までに荷役装置を備えた幅広のはしけ(バージ)の船尾に押船(ボート)を連結させた多目的使用の一体化荷役船の建造を計画し、ボートとバージの連結方法等について独自の考案をしたうえ、その特許出願をなし、右考案に基づき、昭和五三年六月ころその所有船として第一あをい丸を建造した。被告川口海運は昭和四七年六月一三日設立され、油タンカー一隻を所有して内航海運業を営む有限会社(同族会社)であったが、昭和五三年六月ころ、建造中の第一あをい丸と同型船の建造につき、竣工のうえは原告に専属的に運航委託する条件で原告の了承をえ、同被告の業務内容に砂利採取販売業を加えたうえ、第八あをい丸を建造(昭和五三年一二月完成)した。

2  右第八あをい丸建造当時、被告川口海運は、建設業法三条の建設業者の許可も、内航海運業法三条一項所定の内航運送業者若しくは内航船舶貸渡業者又は内航運送取扱業者としての許可も受けておらず、かつ、ボート、バージともに建造して内航運送事業に使用する資格もなかったところ、バージ(船舶であり、かつ建設機械でもある。)については、建設業者でなければ所有権保存登記ができないため、被告川口海運において同船を資金借入の担保(抵当権設定)として利用する必要上、同船の所有名義を建設業者たる原告名義とする必要があり、かつ、原告が業法二五条の二の規定に基づき、昭和四八年七月一〇日に届出していた自家用船使用届出書(同月一六日届出受理証交付)を利用して第八あをい丸を内航運送の用に供するために、造船費用は全額同被告が負担して、実質上は同被告の所有船ではあったが、形式上は原告の自家用船として建造し原告名義で所有権保存登記をし、原告に運航委託して内航運送の用に供することとなった。

そして、原告(受託者)と被告川口海運(委託者)は、第八あをい丸の運航委託契約を締結し、①同被告は原告に対し、バージの建造名義料として金三二〇〇万円を支払う。②同被告が同船の運航により一か月金一二〇〇万円を越える水揚げがある場合、金一〇〇万円を限度として、同被告は原告に対し、特許使用料(前記特許出願に基づき原告が特許権を有することを前提にしていた。)を支払う旨の合意をした。

第八あをい丸は昭和五四年一月一八日、長崎県壱岐島付近で第一あをい丸とともに操業中、悪天候に遭遇し、両船とも甲板構造が座屈して沈没した。その主たる原因は、両船とも、船体縦強度が構造的に不足しており、かつ、バージとボートのすみやかな切り離しができない構造であったことにあった。

このようにして、第八あをい丸の運航委託契約はほとんどその実体が伴わず、委託手数料、特許使用料その他の契約内容が具体化しないまま同船の沈没により終了した。なお、前記建造名義料の支払は全額なされた。

3  原告は第一あをい丸の代船として第二あをい丸を、被告川口海運は第八あをい丸の代船として第六あをい丸をそれぞれ昭和五四年八月ころまでに建造し、同被告は第六あをい丸を原告に運航委託した。第六あをい丸のボート(汽船第六あをい丸)は被告川口海運が内航資格を独自に取得することを前提にしたため、実質的にも名義上も同被告が建造し、同被告名義で昭和五四年七月二四日所有権保存登記がなされたが、バージ(全旋回式起重機船第六あをい丸)は同被告に建設業者の資格がなかったためと、原告の営業船の内航資格を同被告が借り受けることとしたため、第八あをい丸のそれと同様実質的には同被告の所有船ではあったが、原告名義で昭和五四年八月四日所有権保存登記された。右運航委託契約は当初は第八あをい丸のそれに準じる旨口頭でなされたにすぎなかったが、昭和五五年五月、原告・被告川口海運間に昭和五四年八月一日付運航委託契約書(甲第三号証)及び覚書(甲第四号証)が作成された。その内容の要旨は別紙一運航委託契約書及び別紙二覚書各記載のとおりである。被告川口海運は第六あをい丸の船長ほか乗組員を自社社員として雇い入れ、その任免権を有し、船員の給料・船舶の保険料・修繕費、燃料代などの費用を負担し、原告は船員付の右船舶の引渡を受け、同船について、荷主との間の運送契約を同被告のため自己の名で締結してその運賃等を収受し、あるいは自らの荷物(海砂)を運送させ、同船の配船計画を掌り、同船船長に具体的運航を指示していた。原告は長崎県下における海砂採取権をいくつか有していたため、原告が採取権をもつ海砂を第六あをい丸及び第二あをい丸によって採取・運送し、これを販売するのが主たる営業内容であった。

本件運航委託契約の運用状況は、第八あをい丸の沈没・第六あをい丸の新造から日が浅く被告川口海運が資金的に苦しかったことなどのため、特許料・バージ使用料は必ずしも毎月徴収されたわけではなかった。昭和五四年八月から昭和五五年八月までの運用委託手数料・特許料・バージ使用料の支払の実績は別表記載のとおりであった。

4  被告川口海運は、第八あをい丸の建造・沈没、建造名義料三二〇〇万円の支払、第六あをい丸の建造、昭和五四年八月から同年一〇月までの間の運賃収入の不足等を理由として、昭和五五年五月末ころには約三七〇〇万円の負債を抱えていたため、本件運航委託契約書の作成については、特許料・バージ使用料の支払等の点につき不満があり、同年六月ころから断続的に原告に対し、一か月に一五〇〇万円以上の運賃収入の最低保証、特許料・バージ使用料の支払免除を要請し、あるいは融資依頼をしたが、受け入れられなかった。

5  被告川口海運は、昭和五五年七月二五日第六あをい丸の運航を一方的に停止した。その後も両者間で交渉がなされたが、同年八月上旬ころ、原告は被告に対し、逆に砂利販売価格の下落を理由に、砂利運送賃が従前一立方メートルあたり一四〇〇円であったのを一二〇〇円に減額するよう要求するなど交渉は全く進展せず、同年八月二〇日ころ、同被告代表者は原告代表者に対し、本件運航委託契約を解消して他の第三者に運航委託したい旨申し入れたところ、強硬に拒絶され、両者間の交渉はついに決裂した。そして、原告は被告川口海運(同月二三日到達)、被告園池商店(同月三〇日到達)、被告長船(同年九月一日到達)に対し、違法な契約破棄をし、あるいはこれに加担しないよう各被告に書面で警告したが、同年八月二五日付で被告川口海運(委託者)被告長船(受託者)との間で運航委託契約が、同日付で被告長船(運送引受人)と被告園池商店(荷主)との間で砂採取運送契約がそれぞれ締結され、被告川口海運は原告の支配下を離れ、被告園池商店・同長船の支配下に入って運航する姿勢を明らかにし、ついで、同年九月一一日、同月八日付売買を原因として、第六あをい丸(ボート、バージとも)について、被告長船及び同園池商店に対し、持分各二分の一の所有権移転登記手続をし、船名をあわぢ丸と変更したうえ、その後、現在に至るまで同船の実質的な所有者として(形式上所有者である被告長船との間で第六あをい丸の裸傭船契約を締結したうえ)同船を被告長船に運航委託して同船を運航している。

6  原告は本件実用新案権を有する。原告の右考案は、昭和五二年一二月一五日出願の特許出願が二度の拒絶理由通知を受け、出願人が意見書、手続補正書を提出したにも拘らず拒絶査定となったが、右特許出願に基づき昭和五六年六月二日実用新案登録出願に出願変更し、請求原因3記載のとおり公告・登録されたものであり、その技術的範囲は請求原因3記載のとおりである。本件実用新案権の荷役船と第六あをい丸とは、「動力機関を有し自走・操舵能力を有する後推動力船と荷役操業・貨物搭載能力を有する貨物搭載船とからなり」、「貨物搭載船は、その艫部を双洞化する渠口を設け、双洞部内両舷側と中壁との三辺に漸次先細となる嵌合溝部を設け」た点において同一である。本件実用新案権の後推動力船の全長に亘り両舷側及び平坦な舳先部の三辺にそれぞれ漸次先細となる連結張出部があるとの点については、両舷側部は同一であるが、第六あをい丸の後推動力船の舳先部には建造当初は設けられていた連結張出部はその後撤去されており、この点において異なるものの、舳先部に連結張出部を取り付ければ直ちに嵌合固定機能を回復するからこの点においても同一性ありとしてよい構造である。しかしながら、本件実用新案権の「連結固定部材」は、貨物搭載船の嵌合溝部と後推動力船の連結張出部とを、両部に互いに連通すべく設けられた連結固定穴とこれらの穴に挿通する連結ピンとからなっており、右「連結部材」において、出願人は、審査段階で審査官から指摘された両船の係止手段として類似の先行技術との別異性・優位性を主張しているところ、第六あをい丸の「連結部材」は、動力船先端と貨物搭載船対応部の上面に対設されたターンバックル形式の係止部材であって、この点において両者は同一性がない。また、本件実用新案権の「両船の船尾がほぼ面一となるよう嵌合固定する」との点についても、第六あをい丸は「動力船の船尾が四分の一程度貨物搭載船より突出している」ところ、審査段階で審査官から指摘された類似の先行技術(三分の一突出)に対して、「動力船の全体が貨物搭載船に嵌入している」点において別異性・優位性がある旨主張したことを勘案すると「両船船尾がほぼ面一となるように嵌合固定する」との点においても第六あをい丸の構造は本件新案権の技術的範囲に属しない。以上のとおり、第六あをい丸の船体構造は、本件実用新案権と先行技術との識別、その独自性を認めるに不可欠な右二点において異なっているから、本件実用新案権の技術的範囲に属さない。

以上のとおり認められる。被告川口海運は、本件運航委託契約は当事者間にその契約書のとおりの合意が成立したものではない旨主張するが、前掲各証拠によれば、同被告は契約内容に不満は持ちつつも、最終的には契約内容を承認のうえ本件運航委託契約書に調印したものと認められるから、同被告の右主張は採用できない。従って、本件運航委託契約は期間の定めのないものであった旨の同被告の主張も理由がない。

右事実によれば、本件運航委託契約は、被告川口海運が原告に対し、昭和五四年八月二四日から五年の期間、第六あをい丸を船員付で運航委託する旨の契約と認められるから、被告川口海運は、右期間中、原告の配船・運航指示に従って第六あをい丸を運航すべき契約上の義務を負っていたものというべきである。そして、同被告が第六あをい丸の運航を昭和五四年七月二五日停止し、その後原告の配船、運航指示に従っていないことは当事者間に争いがないところ、被告らは、本件運航委託契約は適法に解除された旨主張するので、以下、右認定の基本的事実関係を前提に、解除の適否について、順次検討する。

三被告川口海運に対する昭和五五年七月二五日から同年九月一一日までの債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償請求(請求原因6(一))について

1  同被告は、本件運航委託契約は合意により解除された旨主張し(抗弁1(一))、被告川口海運有限会社代表者本人尋問の結果中には右主張にそうかのごとき供述部分があるが、前認定のとおり、原告代表者が同被告代表者の解約申入れを契約違反であるとして強硬に拒絶したことは明らかであるから、右供述部分は採用できず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

2  同被告は、本件運航委託契約は準委任契約であるから、同被告には民法六五一条一項により解約告知権がある旨主張するところ(抗弁1(二))、なるほど前認定の本件運航委託契約は委託者が船員付の船舶の運航を全面的に受託者に委託し、受託者は善良なる管理者の注意義務をもって受託した船舶の配船運航にあたる旨の契約であり、その意味で準委任契約の性質を有するものではあるが、本件運航委託契約書には五年の期間の拘束が及ぶ契約である旨明記されており、かつ、「委託者が本契約期間中本船を売却譲渡しようとするときは、特許権その他の関係についてあらかじめ受託者の承認を得る」旨本来所有者の自由処分に委ねられるべき同被告の所有船である第六あをい丸の処分について、原告の承認を要する旨明記されていることが認められ、右事実に、前認定のとおり、原告が特許申請中の考案を利用した第六あをい丸の建造は、同船を原告に専属的に運航委託する条件なくしては原告の承認が得られなかったとの同船建造の経過を考え合わせると、同被告に一方的解除権がある旨の同被告の主張は採用できない。

また、本件全証拠によるも、右被告主張の一方的解除をなしうる商慣習が船舶の運航委託の取引社会に存在するものと認めるに足りない。

右被告の主張は理由がない。

3  次に、同被告は、同被告・原告間には本件運航委託契約存続の前提たる信頼関係が消滅していたから、同被告には右信頼関係破壊を理由とする無催告解除権が認められるべきであり、そうでないとしても、このような場合原告が同被告の解除の申込みを拒絶するのは権利乱用として許されるべきではない旨主張する(抗弁1(三))ので検討する。

前記二4認定のとおり、同被告は、昭和五五年五月末には約三七〇〇万円の負債を抱えていたものと認められるが、〈証拠〉によれば、同被告は昭和五三年六月から昭和五四年五月までの一年間に二三〇二万円、昭和五四年六月から昭和五五年五月までの一年間に一七〇四万八〇〇〇円の各損失を計上し、昭和五五年五月末ころには、借入金の利息月間約一〇〇万円の支払に追われ、支払手形の増加・支払期日の長期化・ジャンプの依頼など経営悪化を来していたこと、右経営悪化の原因は、同被告が、昭和五三年六月、第八あをい丸を建造し油タンカーの運航から砂利運搬船の運航委託営業への転換を図ったものの、第八あをい丸の建造費用の支払に加えて、同船が沈没したためにさらに第六あをい丸の建造費用を支払わねばならず、そのために多額の借入金をしたのに対し、昭和五三年六月から昭和五五年五月までの二年間に、同船の運航により実質上収入を得られた期間は九か月にみたず、しかも当初予測を下回る月間運賃収入しか得られなかったことにあるものと認められる。そして、〈証拠〉によれば、昭和五四年六月一四日原告は訴外近海産業株式会社との間で砂採取運送契約を締結し第二あをい丸を右会社の砂利運送に専属させていたが、第六あをい丸が同年八月上旬には稼働可能な状態にあったにも拘わらず、結果として右会社の砂利運送に従事させることができず、他に第六あをい丸に十分な仕事を確保することができなかったこと、そのため、第六あをい丸が昭和五四年八月から同年一〇月までの間別表記載のとおりのわずかの運賃収入しかあげえなかったこと、右事情は被告川口海運の経営悪化の一因となっていることが認められる。

また、前認定のとおり、同被告は原告に対して第八あをい丸の建造名義料として金三二〇〇万円の支払をしているところ、原告代表者本人尋問の結果によれば、右金銭は原告が神戸海運局長に対しなした自家用船舶使用届出書を同被告が利用する対価として支払われたものであるというのである。そして、〈証拠〉によれば、原告は昭和四八年七月一〇日付で神戸海運局長に対し、内航海運業法二五条の二の規定に基づき、自家用船舶使用届出書(ただし、届出事項中、船舶は竣工予定同年一〇月初旬の建造計画中のもの三隻、未定のものとして届出。)を提出し、同海運局長から同月一六日付で、届出事項確定時(竣工時)に正式に発行されるべき自家用船舶届出受理証が交付されるまでの間仮に発行される受理証(届出受理証)の交付を受けたこと、右のごとき場合、未確定の届出事項が確定し、あるいは届出事項が当初のそれと相違する場合は、届出者は改めて変更届出をする必要があり、かつ重大な内容の変更については日本内航海運総連合会の意見書を徴する取り扱いであったこと、原告は航路の変更、船舶の特定に関し、変更届出の前提として日本内航海運総連合会に対し、意見書交付申請をしたが、昭和五三年一二月末ころ却下されたこと、従って、右変更届出は結局なされなかったことが認められる。右事実によると、建造名義料の基礎となると原告が主張する自家用船舶使用届出書ないしはその受理証を原告が有していたことは認められるものの、そもそも原告主張の自家用船の内航資格なるものが権利として確立していたものであるかいなかは疑問であるうえ、仮に右自家用船の内航資格が事実上譲渡ないし貸与の対象となっていたものとしても、右自家用船舶使用届出書ないしはその受理証の利用による第六あをい丸の内航運送は、内航海運業法二五条の二の届出がなされていたかいなかの点はともかくも、日本内航海運総連合会の承認がえられなかった点、右変更届出がなされなかった点で、実質的に違法な内航資格を有する船舶の運航とは認めがたいものであったというべきである(もっとも、前掲各証拠によれば、自家用船を内航運送の用に供する場合の規制方法は、当時の行政指導いかんにより左右される性質のものであったと窺われるから、右瑕疵が事実上の運航に差し支えが生じる程度のものであったかいなかは明らかではない。)。そして、原告代表者本人尋問の結果によれば、第二あをい丸及び第六あをい丸の建造の際は、すでに右自家用船舶使用届出書ないしはその受理証によっては事実上も内航運送を営むことは難しかったため、行政指導により原告は当時原告が有していた右届出書ないしはその受理証(残余の一隻分につき)を利用することなくこれを海運局長に返還したことが認められること等の事実を勘案すると、右自家用船舶使用届出書ないしはその受理証を利用することによる内航運送は昭和五四年六月ころにはすでに事実上不可能となっていたものであり、少なくとも当時はその価値がほとんど失われていたものと認めるのが相当である。従って、同被告から原告に交付された右三二〇〇万円は、右事実を前提に清算されるべき性質の金銭であったものと認められるところ、右三二〇〇万円の支払も同被告の経営悪化の要因となっていたものと認められる。

前記二3認定のとおり、同被告は原告に対し、前認定の条件で毎月一〇〇万円の特許使用料を支払う旨約し、昭和五五年七月までに合計金三五七万六一〇〇円の特許使用料の支払をしているところ、前記二6認定のとおり、第六あをい丸の船体構造は本件実用新案権の技術的範囲に属さないものであったから、右特許使用料の支払約束は本来根拠のないものであったものと認められる。そうすると、支払ずみの特許使用料は右事実を前提に清算されるべき性質のものであったし、右特許使用料支払約束は被告川口海運から申出があれば解消されねばならないものであったというべきである。

以上のとおり、被告川口海運は、昭和五五年五月末ころには、経営状態が悪化し、その原因の一部については原告にも責任がなかったものとはいえない事情が認められるうえ、第六あをい丸の船体構造は本件実用新案権の技術的範囲に属するものではなかったから、原告は、第六あをい丸の建造・運航につき、独占排他性を有する絶対権として保護される権利である実用新案権を主張しうる立場にはなかったのに、これがあるものとして本件運航委託契約は締結され、右特許使用料の支払、第六あをい丸の原告への専属的運航委託が合意されたものであると認められる。

そして、〈証拠〉によれば、昭和五五年五月末ころから同年八月にかけて、被告川口海運は原告に対し、月間一五〇〇万円以上の手取収入がなければ経営が成り立たず、同社は最悪の事態にあるので、最低月間一五〇〇万円の水揚げを保証してほしい、特許使用料は減額ないし特許登録のなされるまで支払猶予してほしい、同被告に融資してほしい旨申入れたが、原告はこれを拒絶し、逆に前認定のとおり砂利運送賃の減額を要求し、交渉が決裂した経緯が認められる。

原告が右特許使用料の減額ないし支払猶予の申入れを拒絶した点は前記のとおり特許使用料の支払は根拠のないものであったから不当なものであり、右最低保証及び融資の申入れを拒絶した点は、一般論としては、運航委託契約の受託者には委託者からの右のごとき要求に応じる義務があるものではないけれども、前認定の被告川口海運の経営悪化の経緯に鑑みると必ずしも正当なものであったとはいえないものと認めるのが相当である。以上のとおり、本件運航委託契約は第六あをい丸の建造・運航が本件実用新案権の実施に該当することを前提に、かつこれを中核的要素として締結されたものであるが、第六あをい丸が利用した原告の考案は実用新案権としては保護されるものではなかったこと、その意味で特許料の支払は根拠のないものであったこと、建造名義料として支払らわれた金三二〇〇万円は精算されるべきものであったこと、被告川口海運の経営悪化の原因の一部については原告にも責任があることに加えて、昭和五五年五月以降砂利需要の減少により第二あをい丸、第六あをい丸ともに仕事が少なくなっており、これに対し、即効的な対策が講じられた形跡は認められないこと(別表参照。ただし、同表は前月分を該当月の水揚げとして集計されている。)、本件運航委託契約の法的性質は、実質的には被告川口海運の企業としての組織体全体を原告に賃貸借する契約であり、受託者たる原告には委託者たる同被告の企業としての存続を脅かさない注意義務があるものと解されることを勘案すれば、被告川口海運の原告に対する本件運航委託契約の解約の申入れにはやむを得ない理由があったものというべきであり、原告が右申入れを拒絶するのは右認定の具体的事情のもとでは権利乱用として許されないものと認めるのが相当である。なお、証人荒川清の証言によれば、被告川口海運が本件運航委託契約の解約を検討し、取引銀行である兵庫相互銀行の担当者に相談するなど具体的にその行動を開始した時期はおそくとも昭和五五年七月ころと認められるが、右事実は前記認定を妨げる資料となるものではない。

以上のとおり、前記二5認定の被告川口海運が原告に対してなした解約の申入れを原告が拒絶することは、運航委託契約の当事者間の信義則に反し、権利乱用として許されないものと解するのが相当である。従って、本件運航委託契約は昭和五五年八月二〇日ころ適法に解約されたものと認めるのが相当である。また、被告川口海運が第六あをい丸の運航を停止した同年七月二五日から右解約日までの運航停止についても、前認定の事実関係に鑑みると、本件運航委託契約の解消交渉中の停船として債務不履行となるものとは認められない。

被告川口海運の右抗弁は理由がある。

四被告ら三名に対する昭和五五年九月一二日から同年一一月二〇日まで及び昭和五七年七月一日から昭和五八年一〇月三一日までの共同不法行為に基づく損害賠償請求(請求原因6(二))について

右三記載のとおり、本件運航委託契約は適法に解約されたものと認められるから、原告の右主張は、その余の点につき判断するまでもなく理由がない。

五本件実用新案権侵害に基づく請求(請求原因7)について

前認定のとおり、第六あをい丸の船体構造は本件実用新案権の技術的範囲に属さないものと認められるから、その余の点につき判断するまでもなく、本件実用新案権侵害を理由とする原告の主張は理由がない。

六以上の事実によれば、その余の点につき判断するまでもなく原告の本件請求はすべて理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九三条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官杉森研二)

別表

昭和・年・月

運航手数料

特許料

バージ使用料

精算後被告受取金

54・8

35,000

0

0

665,000

54・9

292,000

0

0

5,548,000

54・10

168,000

0

0

3,192,000

54・11

471,762

0

0

8,963,488

54・12

815,216

1,000,000

0

14,489,114

55・1

612,190

0

0

11,681,610

55・2

661,900

576,100

0

12,000,000

55・3

964,620

1,000,000

0

17,327,780

55・4

692,900

1,000,000

200,000

11,979,850

55・5

625,000

0

200,000

11,675,000

55・6

598,000

0

200,000

10,342,000

55・7

350,000

0

200,000

6,450,000

別紙一 運航委託契約書

航路・貨物限定 主として長崎西岸一円、主として海砂

委託期間 昭和五四年八月二四日より五年間

委託開始場所 長崎市壱岐郡郷ノ浦港

特約条項 本契約期間満了一か月前までに委託者又は受託者のいずれか一方より相手方に対して解約の申出がないかぎり、本契約期間はさらに一年間延長されるものとし、事後もこれに準じて自動延長するものとする。

第一条 《堪航能力》 これにより生ずる一切の責任は委託者に属する。

第二条 《配船運営》 委託者は、積荷の選択、配船、運賃取決、燃料契約並びに積揚地及び寄港地における代理店・船内人夫その他本船運航に関連する一切の手配を受託者に一任し、受託者は委託者の危険と費用により善良なる管理者の注意義務をもって有利運航にあたるものとする。

第三条 《運送契約》 受託者は委託者のために自己の名において本船の運送契約を締結する。この場合、受託者は事前に航路等必要な事項を委託者に通知する。

第六条 《運賃及び費用の精算》 受託者は本船運航による運賃、滞船料等を遅滞なく収受し、燃料代、港費その他本船運航に関する費用を支払い、その収支計算は毎月末日までにその前月分につき精算するものとする。運賃は別途協定する。

第一〇条 《本船の売却譲渡》 委託者が本契約期間中本船を売却譲渡しようとするときは、特許権その他の関係についてあらかじめ受託者の承認を得るものとする。

第一一条 《契約違反》 当事者の一方が本契約に違反したときは、相手方は、直ちに契約を解除することができる。この場合、違約者はよって生ずる一切の損害金を相手方に支払わなければならない。

第一二条 《仲裁》 本契約に関して当事者間に争いを生じたときは、各当事者は、社団法人日本海運集会所(神戸)に仲裁判断を依頼し、その選定にかかる仲裁人の判断を最終のものとしてこれに従う。

別紙二 覚書

一 特許料

本船の稼働による総運賃収入金額が月あたり金一三〇〇万円を越える場合には、被告川口海運は原告に対し、その運賃の精算時に特許使用料として金一〇〇万円を支払うものとする。

二 バージの使用料

被告川口海運は原告に対し、バージの使用料として毎月金二〇万円を支払うものとする。

三 本書の有効期間

当該覚書効力の発生を昭和五四年八月二四日とし、むこう五年間を有効期間とする。当事者双方とも一か月前の予告をもって本条件の変更を申し入れることができる。

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